以前の工場は、工場ごとに職人を日当で雇用していました。その方が職人、工場ともに都合がよかったのですが親会社の方針で原則的に工場の労働者は社員化か請負契約にすることが決められました。請負契約をするには、細かい要件を定めなければならず、工場の職人の中には税金対策で会社名義にしている人たちから、親方の元で社員という待遇ではなく、働いた日数に応じて日当をもらっている人たちが多くいました。
職人の中には変わった人がいて、彼らの多くは国民年金を支払っていません。
工場作業員の社員化にする際に、このことが最も問題視されました。現在では年金受給に必要な年限はかなり短縮しましたが、当時は25年間(300か月)支払わなければならなかったのですが、現在では10年(120か月)に短縮しています。日本人であれば20歳から満60歳までの40年間、480か月で満額の年金がもらえますが、その期間に満たない場合は減額されます。
工場内で働いている職人は、親方が工場から一括で支払う給料から、少し天引きされて日当をもらうという風に賃金をもらっていました。当然、その中に国民年金や国民健康保険は含まれていません。健康保険に関しては、さすがに支払っている職人がほとんどでした。工場内は危険がいっぱいです。どんなに注意していてもつまづき災害などは避けられない時はあります。工場内では労災になりますが、病気になった時に病院で高額の支払いをしなければいけないので健康保険だけは支払います。
制度が変わり、10年間で少額にはなりますが年金がもらえるようになりました。さらに工場内では請負ができない場合は社員化になると通達がされました。正社員化ではなく、定時社員といって非正規雇用ではあるのですが、給料から厚生年金と健康保険が天引きされます。彼らからすると単純に給料が目減りすると考えてしまいます。その代わりに定時社員化ということで健康保険は給料から支払われ、有給も取得できるという待遇となっています。
「こんなんじゃやってられない。」と何人も工場から去って行きました。
工場が仕事をお願いしていた下請けの工場に移ったもの、ウチよりも大きい工場につとめたものそれぞれです。ウチよりも大きい工場は、待遇はいいのですが仕事がきついので有名で、決まり事も多く数か月で辞めてしまったようです。
国民年金の場合は、前述のように25年間支払わなければならなかったことから、「自分はどうせもらえない」と職人さんは支払わなかった人がかなりいました。50代後半の職人もいましたが、彼らは年金に期待せず、自分の稼ぎだけでこの先をしのごうと考えていました。
そういう生き方を選択した場合は、何歳になっても働き続けなければなりません。
今の職場を退職したら、何歳であっても無収入になってしまいます。工場勤務の職人さんは国民年金分がとられないからと言ってそれを貯金したりする人は実際少なくて、意外に家持ちもいるのですが将来的な計画などほとんどない人が多かったりします。そのため、ケガをしたり病気になった場合に職場を辞めなければならなくなった人はかなり追いつめられます。プライドが高く、生活保護ももらえるのが恥だと考えるようでさらに自分を追い込んでいきます。
今は10年間を支払えば最低ですが、国民年金の受給資格をクリアします。未来のセーフティネットとして一度真面目に考えるべきです。