若手がベテランに注意するときは慎重に

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中途入社のAさんは大学をでて何年かほかの企業に勤めていて、わが社に入社しました。工場には高卒入社の社員が多いので、大卒の場合は管理者側に最初から割り振られることが多いです。Aさんは製造管理という製品が一日にどれくらいできるかを工場内で管理する部門を任されています。工場内の製品数をとりまとめ、部長に報告するのです。Aさんは少々おとなしいタイプで真面目なのですが、あまりにも仕事の仕方が真面目過ぎるためにひねくれものが多い工場内の職人からちょっと嫌われています。
工場で働く人というのは喫煙率もかなり高いです。最近ではタバコを吸わない人も増えてきたものの、パチンコ(パチスロ)とタバコは習慣的にやっている人が多いように感じます。Aさんはタバコも吸わず、パチンコは行くようですがあまり頻繁ではありません。

工場内は以前はどこでもタバコを吸えましたが、いまでは決められた場所で、休憩時間しか喫煙できないルールになっています。お客さんと工場の作業員の喫煙場所を同じところにした時に、工場作業員がお客さんに聞こえる様に製品の手抜きをしていることを聞かれてしまい、大騒ぎになったことがあったことから工場の作業員は自分の部署の近くで喫煙してもよいというルールに変更になりました。ただし、休憩時間のみというのが原則です。昔からいるベテランほど、そういうルールに逆らいたがります。
そんなルールは、社長が来た時ぐらいしか意識されず、大抵見て見ぬふりなのですが、Aさんが工場内で製品がどれだけできたかを確認しようと事務所から工場へ入ろうとすると、工場で休憩時時間外でタバコを吸っているベテランの職人さんがいました。
常日頃、ルールは守るように、工場内の人にも守らせるようにと社長から言われていたAさんはその人に休憩時間外でタバコを吸わないようにと注意をしてしまいました。言い方も「休憩時時間以外の喫煙はダメだと言ってるでしょう。」と上から目線の言いようだったそうです。

ルールはルール

もちろん「何を偉そうにいってやがるんだ!」と揉め事になります。Aさんもよせばいいのに、喫煙は休憩時間だけ許されているのだと声高に主張します。
確かにそうですが、正論を言われるとさらにムカつくものです。工場内の職人も単純というかあまり難しいことを考えるようなタイプは多くいません。
口で反論ができないので、つい手が出てしまったようです。右手で「うるせえよ!」とAさんを突き飛ばしました。それほど強く押したわけではないようですが、足元がもつれてAさんは転倒…。工場内はヘルメット着用が義務付けられているのに、Aさんはちょっとだけ工場に入るつもりだったので、ヘルメットをしていませんでした。工場内はきれいでも様々な凸凹はあり、つまづいたり転んだりするととても危険です。ちょうど資材が積んであるとことに頭を打ち付けて出血してしまいました。
頭のケガによる出血は実際よりも重症に見えます。プロレスで頭から出血しているレスラーをみたことがあるかもしれませんが、実はキズはちょっとだけだったりします。

頭を負傷して病院に

たまたまトイレに行こうと通りかかった社員がAさんが突き飛ばされたのを目撃していました。事務所内に飛び込んできて「大変なことが起きた!」と大騒ぎします。社内失業中の我々はこういう時こそ動かねばなりません。というかお前らが一番適任だと暗黙の了解をも周りが求めてきます。
Aさんは地面に座り込んで、出血のあるあたりを素手で押さえています。意識はあるようです。
工場内にはいると頭から血だらけのAさんをみてビビります。救急車を呼ぶと下手をするとそのまま警察を呼ばれかねないので、我々はタオルで頭を押さえたまま近くの病院に社有車を使ってAさんを運びます。
転倒による労災ということにします。労災隠しはホワイト企業のわが社はしません。ただし、ちょっとだけ状況を変えて、ぶつかって転倒したことにすることにしました。

そして退職に…

Aさんのケガは全治1週間ほどで重症というほどではありません。
ただAさんはとてもショックらしくて病院に付き添っている間涙を流しながら「もうイヤだ」と何度もつぶやいていました。ルール違反を注意したらこんな目にあうなんて間違っている、と。
たしかにそうですが、少しぐらいのルール違反はあまり目くじらをたててもという意味のことを言ったら私をにらみつけて「あんたみたいな会社のお荷物になりたくないんだよ!」と吐き捨てられてしまいました。
その後は当然待合室でとっても気まずい時間が流れます。

結局Aさんはほどなく会社を退職することが通達で発表されました。出社の最終日に私のところにあいさつには来てくれて、「あの時は失礼なことを言ってしまってすみません。」と謝罪してくれました。
正直社内失業状態なのは自分でもわかっているのですが、他人にズバリ指摘されてしまうと少々落ち込んでしまうのも事実です。顔は笑顔のつもりでしたが、若干引きつり気味だったかもしれません。
ルール違反を指摘するのは必要なことですが、工場のベテランは自由気ままにふるまいたがります。若手は様子を伺って、上から目線の指摘は気を付けましょう。

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